茶の相談室①

N(悩みの頭文字をとってN)が悩みを打ち明けに来た。

 

…………

 

N「こんにちは」

相談員(以下、相)「どうも」

N「突然ですが、悩んでいるんです」
相「そりゃあ悩むだろうね。具体的に、何を悩んでいるのかな?」

N「悩みについて、悩んでいるんです」
相「なんだって?悩みについての悩み?なんだか難しそうでやだな。まあいいや、とりあえず聞かせてもらおうかな」

N「相談員ですよね。きちんと聞いてください」
相「うん」

(二人がお茶をすする)

N「先に言っときますけど、もちろんいろいろ悩みはありますからね」
相「それは安心。でも今日は、なんだっけ、悩みの悩みなんだろう?悩みに代わって悩んでるってわけかい?」

N「違います。自分の悩みについての悩みです」
相「なるほど。なんだかうまく聞けるか悩みそうだよ」

N「ちゃかさないでください。真剣なんです」
相「ごめんごめん。ではどうぞ」

N「最近思うんです。どう悩んだらいいのかなって」
相「何を?」

N「どんな風に悩みを悩めばいいのかなって思うんです」
相「悩み方ってこと?」

N「まあ、そんな感じです」
相「そんなの悩まずに、さっさと悩めばいいんだよ」

N「だったらここに来てませんよ。まずは話を聞いてください」
相「悪かった。ここからは本気で聞こう。相談員だからね」

N「お願いしますよ」
相「うん」

N「で、どう悩むかってことなんですけど、自分のいろんな悩みって、やっぱり自分だけのものだと思うんです」
相「それはつまり、みんなそれぞれの悩みがあるってことかな?」

N「そうです。みんなそれぞれ内容が違うから、全く同じ悩みっていうのは無いだろうなって」
相「1対1の恋愛関係みたいなものかな?」

N「まあ、そうかもしれないです。2人のことは2人にしかわからないみたいな。そんな感じだと思ってます」
相「うん」
N「自分と悩みも、そういう二者関係だと思うんです。面と向かって向き合うはずの。」
相「まあ誰かに代わって悩んでもらうことはできないからね」
N「でも、悩みって『言葉』でしか表せられないだろうなって」
相「とりあえずそうだと言えるかもね」
N「思考とかもそうなのかもしれないですけど…でも自分は、もっと悩みと向き合いたいんです」
相「というと?」
N「なんていうか、自分の悩みは言葉じゃ表せられないみたいな感じがあって、それと対面したいっていうか」
相「言葉以前の、ってこと?よくわからないけど」
N「まあそうですかね」
相「言葉になる前の気持ちのモヤモヤを考えたいってことかな」
N「そうなんだと思います」
相「なるほど。でも、言葉にしないと相談できないよ。相談員としてはそれは困るな。みんなが相談に来てくれないと商売あがったりだからね。それに、言葉にしないで悩めるのかな?なんらかの言語を介さずに物事を考えるって、ちょっと想像しにくい気もするなあ」
N「まあそうかもしれないですけど。でも、それだと純粋に悩めないっていうか」
相「純粋に?」
N「言葉って、なんていうかよそよそしいっていうか。自分の悩みに対して、それじゃねーよ!みたいな。うまく言えないけど」
相「それは単純に語彙が足りないだけなんじゃないの」
N「いや、うーん。まあそうなのかも。でも、言葉を介すと二人の関係に第三者が入ってくるみたいな嫌な気持ちになるんですよね。悩みを悩めないっていうか。なんか悩みに対して申し訳ないです」
相「なるほど」
N「だから、どうしたら悩みと二人の関係になれるのかなって」
相「うーん。少なくとも、そうなったときはここにはもう用が無くなるだろうね」

N「そうかも…しれないですね」
相「それにやっぱり、言葉なしに何かを考えられるのかな?今だって言葉を使っているし、言葉がなければモヤモヤがモヤモヤのままなんじゃないの」
N「いや、でも言葉は他の人の垢がついてるっていうか。自分の悩みが見えなくなっちゃいそうなんですよね」
相「自分の悩みを言葉で表現することで、その悩みが歪むと」
N「そうです」
相「でも、歪まずにピタッとはまる言葉もあるんじゃないのかな。探してないだけなんじゃないの」
N「それを言われると…」
相「それに、言葉だって別に新しく定義を付け加えたら良いじゃないか。自分の悩みをピッタリあらわすように。」

N「でもそうするとかなり回りくどくなる気がするんですけど」
相「それは仕方ないんじゃないかな。だってそうするほか自分の悩みをあらわせられないなら、モヤモヤは解消しないままだ」
N「うーん」
相「同じような悩みを抱えた人が考えた言葉だってあるんだから、それを使わないのはもったいない気もするけどね」
N「その点検作業が面倒だなあ。やっぱり既存の言葉じゃなくて、自分の悩みそのもののスケールで悩みたいんですよね。それでこそ悩みと二人の関係になれるっていうか」
相「まあわかった。じゃあその二人の関係に相談員はどう関わればいいのかな?具体的な悩みを聞くのが相談員の仕事なんだけど…。二人の関係で完結するなら、ここに来る必要もないと思うよ」
N「そうですね…すみません。」
相「とりあえずいまある言葉で考えてみなよ」

N「はい…そうしてみます。でもなあ」
相「でも?」
N「やっぱり、悩みは自分だけのもののはずなのに、言葉っていう他人が入り込むのがやだな。二人の関係に水を差されたくないです。」
相「こだわるねえ。さっき恋愛関係みたいだと言ったけど、じゃあDVとされるものがあった場合、それは第三者による判定が必要なんじゃないのかな。そうではなくて二者関係が大切だっていうのもわからなくはないけど、どうなのかなと思うね」
N「…」
相「それにそもそも、自分ていう存在だって、他人との違いがあるから成り立ってるんじゃないの」
N「そうかなあ」
相「明と暗が互いに必要とするように、自分と他人は互いに必要としているんじゃない?自分の悩みっていっても、対人関係に基づくものがほとんどでしょう」

N「だけど自分は自分だと思います」
相「そうか」

(チャイムが鳴る)
N「すみません、今日は行きます」
相「最後は少し違う話になってしまったけど、おつかれさまでした」
N「ありがとうございました」
相「うん」
N「じゃあ、失礼します」
相「はーい」